*** きっとおまえには気づかれてしまうだろう(7.棺桶)
今、綱吉には秘密がある。
家庭教師が健在なら洗いざらい話して泣き言を言って蹴っ飛ばされてしぶしぶ諦めたいような、そんな秘密がある。
―――だから、おめぇはダメツナなんだ
なぁ、そう言ってはくれないか先生。
いくつになっても、巨大犯罪組織の頭目を張っても、ダメなものはダメだ。生まれつきなんだ。
小さな丸薬が手に入ったのは、あれは何年前だっけ。脳天を打ち抜かれることなく炎をまとうことができるようになってからずい分経つ。
瞬く間もなく頭蓋にめり込み容赦なく抜け出していく小さな弾丸。
熱度はわからない。熱くもあり冷たくもあり、感知できない。触感ではなく、あれはきっと感情で受ける衝撃だからだ。
嫌で嫌で仕方のなかったあの感覚。
空っぽの胸の中に冷やりと炎が熾るあの矛盾に満ちた暴力的な衝動。
―――普段から死ぬ気でやってりゃ俺だって撃たねぇ
今や常時かつかつの必死、あっちでもこっちでも問題だらけ、死に物狂いで対処に奔走しているのに。
記憶の中の家庭教師は変わらぬ叱咤を頭蓋に響かせる。
まだ足りない、本当の死ぬ気じゃないってそう言うんだな。
そうして、綱吉が馬鹿を実行する前に鼻で笑って、ズガンと一発。
(……おまえだったら、きっと叱ってくれただろうな)
けれど、彼はいないのだ。ふっつりと消息を絶ってそれっきり。右腕はまだ行方を探らせているけれど、教え子の窮地を見過ごすような薄情な教師ではなかったから、だから、彼はもういないことを綱吉は知っている。
(オレの臆病を咎めてくれただろうな)
ぼろぼろと手のひらから零れ落ちていく大切なもの。
大きくなればなるほど守らなければならないものも増えていって、もう、綱吉一人の手では庇いきれない。
怖くてこわくて仕方がない。
『何のためにオレたちがいるんです!!!』
そう、先生の代わりに叱ってくれるようになった彼らまで失うようなことになったら。
――だから、棺桶を作らせた。
怖い先輩とも取引は済ませた。
逃げるの、との蔑みには「いいえ」とばればれの嘘で返して(嘘を堂々と言い抜けた度胸を買ってくれたに違いなかった)、保険だけは手にして。
右腕に感づかれることなく資金を動かせた自分にちょっとだけ賞賛を送って、発覚したときの言い訳は「工作2の君に頼むととんでもないものが届きそうだったから」――これにしよう、と決めて。
実はホンモノの銃で撃たれたことがないんだ、痛いかな、と溢して研究者には呆れられたけど。
本当は、撃たれたとき、冷たい炎を呼び覚まさずにいられるだろうか、と冗談でなく危惧している。
十年前の自分には、きっとばれるに違いない秘密。