*** 犬だって学習する話
隠しておられる、というのはすぐにも判った。その理由も、たぶん。
だがしかし、解ることと、分かることは違うわけで。
何度口に出してしまおうかと思ったかしれないくらい逡巡は胸に渦巻いた。今は良いですけど、あとで腫れてくるのはおわかりですよね? 少しでも早く冷やしたほうが良いことも?
――それでも、主がなんでもない顔で、むしろ敢えてオレから右手を隠すようににっこり笑っておられるとなると、意を違えるのもためらわれた。
(心配されなくても、無理に騒いだりはしませんよ)
ほら、オレは今もちゃんと我慢しているでしょう!
じりじりと歯噛みをするが、もちろん、面に出すような真似はしない。
……分かっている。10代目は、オレに言わせたくないのだ。あなたの右手はここにもある、と。いくらでも良いようにお使いください、と、誓わせたくないのだ。
オレはいつだって、もう何年も前からだって、すべてを捧げてしまっているのに。
気づいていて、受け取ってくださらない。……今の主には必要のないものだから。
まだ、沢田綱吉さんは沢田綱吉さんひとりでいいのだ。この方の手のひらには、この方の望む分だけ、望めるだけを握り締めて、それが許されている。
(心配されずとも)
オレはこのままここで打ち捨てられてもかまわないのですよ?
その覚悟込みであなたの傍らに立っている。
いつか、それを分かっていただければいい、と今のところはただそう願うばかり。
とりあえず、明日、指の腫れが無駄に放置した分だけ悪化していたりしたら――そのときは、ちょっとヒドイですよ、と拗ねた気分で考えた。