獄寺には怒鳴られて、クラスメイトの友だちには頬を張られた。
踏んだり蹴ったりの泣き面に蜂、だ。
なぜ自分が責められなければならないのか、ちょっと理不尽な気がするが、たぶん、断りきれないことが悪いのだろう。
――獄寺君に紹介してよ! なんていう、気の進まない頼みごとを。
いつの頃からか、ハルが並盛きってのイケメン男子(ハル的にはちゃんちゃらおかしい表現なのだけれど!)と知り合いだということは周囲の知るところとなっていて、どんな伝(つて)でも縋りたい、そんな女子に頼られることがめっきり増えたのだ。友だちの友だちの知り合いの……なんて縁の遠い相手でも、拝み倒されると断るに断れなかった。
賢い行いでないことはハルにだってわかっている。もう――もう何度も繰り返しているからだ。
けれど。
どんなに結果がわかっていても、それでなくてもお勧めできないと思っていても……「可能性をつぶしてしまうの」と言われると弱かった。
人の気持ちのつながりを自分の裁量で断つことが傲岸でない、とは思い切れなかった。何がどんな実を結ぶのか、試してみる前に判じてしまうことはできなかった。
――馬鹿だなぁ、ハル。
そんなこと、言われなくたってわかってます! とは返さなかった。心底呆れたといったふうなのに、ぐずぐずと泣き続けるハルに付き合ってくれたから。
「おまえ、もう、こんなのやめとけよ」
ハルが悪い、とは決して言わなかったから。
「ツナさんは、たのまれたりしないんですか」
別の学校で女子のハルなんかより、同じクラスでいつも一緒にいる、そして怖くない男子の彼のほうがきっとよっぽど頼られているはずだった。
「オレ?」
苦い笑みがすべてを物語っていた。
「オレは、ほら。……獄寺君だし」
きっと、このあとは、怒っていってしまった獄寺を探しにいってしまうに違いなかったけれど。
「でも、おまえはやらなくたっていいだろ?」
パタパタと何度かポケットを叩いて、目的のものは見つからなかったのだろう結局ただ隣に座っただけだったけれど、ハルにはそれで充分だった。
見えない可能性を探すことはしなかったけれど、充分だった。