「ごめんってば、もう泣き止んでくれよ、獄寺君!」
巨大マフィアの偉大なる十代目ドン・ボンゴレは、悲しげにさめざめと泣く右腕に、すっかりまいった心持ちで、オレが悪かった! とぎゅうとばかりに抱きしめました。右腕は鬼の獄寺なんて部下に恐れおののかれている常日頃をどこかへしまって(十代目の前ではいつものことですが)、でかいわんこのごとくすり寄って、鼻をくすんと鳴らしました。 「もう君にウソなんかつかないからさ…」 さらさらとやわらかい銀の髪をぐしゃぐしゃとなだめ、十代目は心の底から反省しました。 嘘をついたのはもう十年も昔のこと、当時の自分がなにを思ってそんな軽口をたたいたのかすっかり忘れてしまいましたが、それをまさか右腕が疑いもなく信じ続けるなんて、露ほども考えていなかったのです。 自分の言葉が彼にとってどれほどのものか、いつのころからかはきちんと肚の中に収めて日々暮らしているつもりでしたが改めて思い知らされたというところ。 たぶん、恥ずかしさのあまりでしょう(なにせ十代目のついた嘘はほんとうにコドモらしい嘘八百だったので)照れ隠しも多分に動揺を誘ったに違いなく、年甲斐もなく流した涙をこれ以上は主に見せまいと、長い腕で小柄(大きくないだけ! 小さくはないの! とは十代目の言です)な身体を、今度は逆に抱き込んで視界をすべて覆ってしまいました。 そうしておいて、まだ少し湿った(けれど他人は聞くに堪えない甘ったるく響く)声で「いいんです」と右腕は気丈に告げました。 「オレは10代目の仰ることは何でも信じますから、どうぞこれからもお気兼ねなく」 「いやいやいや、それはないだろ獄寺君!」 大人になって、跡目を継いで、今では十代目に誤りあればきちんと正してくれる右腕なのです。部下の仕事にはきちんと報いろと先生に言われるまでもなく、いくら感謝してもし足りない相手なのです。 あー、もう、十年前のオレはバカだった(今でもだけど!)と十代目はがっかりと右腕の胸に小さく猫の子のように収まって、けれど逃しはしないとばかりに服の裾を握り締めました。 右腕はそれがくすぐったかったのか、ようやく涙をしまったくすり笑いを十代目の耳にそっと忍び込ませました。 「御冗談を解さぬ出来の悪い右腕で申し訳ありません」 それでさきほどの涙には、ただただ羞恥と――それから、主の茶目っ気に応えられなかった悔しさであって、人の悪いボンゴレ十代目のことはこれっぽっちも怒ってなんかいないのだと知らしめられて、やっぱりほんともううっかり右腕をからかうのは止めよう、と心に誓ったのでした。 15/4/1 |